腹壁ヘルニアの手術

腹壁ヘルニアとは、腹筋が断裂または筋肉結合が弛緩してヘルニア輪を形成し、皮下へ臓器が脱出した状態です。ヘルニア嚢は、犬猫においては多くの場合、腹膜にて形成されますが、飼い鳥では肝後中隔によって形成されます。腸管および卵管は、腸管腹膜腔に収められているため、ヘルニア形成時には、断裂した腹筋から肝後中隔によって形成されたヘルニア嚢に包まれた状態で皮下に腸管や卵管が脱出しています。
 腹壁ヘルニアの手術は、ヘルニアの形成部位によって術式が若干異なりますが、ここでは、正中部の腹壁ヘルニアの手術法について解説します。 ここで紹介する手術法は、当院の術式です。術式は、病院によって異なります。 

腹壁ヘルニアの概要についてはコチラ

1. 症例外貌

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2. レントゲン写真

 ヘルニア嚢内に腸管が脱出していることが分かります。またヘルニア内に脱出した卵管内に小さな卵がはいっていることも分かります。

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(1) 皮膚切開

p5-2_img05.jpg皮膚の切開は、ヘルニアの形状にもよりますが、X字に切開を行うと、後の皮膚整形が容易となるばかりでなく、ヘルニア輪を確認するための皮膚剥離も容易となります。皮膚は多くの場合、キサントーマ化しており、脆弱で出血しやすくなっています。よって切開に使用する器具は、メスや外科剪刃ではなく、電気メスやレーザーメスによって止血しながら切開する必要があります。



(2) 皮膚剥離

p5-2_img06.jpg 次にヘルニア嚢から皮膚を剥離します。剥離とは、ヘルニア嚢から皮膚を剥がすことです。剥離の際に起こる微小出血は、電気メスを用いて全て止血します。剥離は、ヘルニア輪と正常な腹筋が確認できるまで十分に行います。ヘルニア輪周囲には皮下脂肪が蓄積しやすく、確認のためには脂肪の除去が必要になる場合もあります。



(3) ヘルニア嚢の切開

p5-2_img07.jpg ヘルニア嚢は肝後中隔が伸展した物であり、2層の膜および脂肪から形成されています。比較的丈夫な組織に変化しており、時に靭帯状となっています。ヘルニア嚢には微小血管がいくつか存在するため、電気メスを用いて、止血しながら切開する必要があります。
 ヘルニア嚢を切開する時は、回腸の位置を確認し、傷つけないように切開します。




(4) 卵管摘出

p5-2_img08.jpg 卵管疾患を起こしている場合に限らず、正常な卵管も摘出を行います。これは体腔内へ戻す臓器を少なくするためです。ヘルニアを起こしている鳥は、臓器が長期間脱出していたため、体腔内が縮小していることが多く、卵管を摘出することによって体腔内に戻す臓器の容量を減らすことができ、また腸を環納するためのスペースを体腔内に作ることができます。
 卵管は背側から伸びる卵管間膜によって腸管腹膜腔内に保持されています。卵管間膜は、背側腹膜間膜およびそこから続く腹側間膜から成っています。2枚の腹側間膜は卵管の両側に接合しています。卵管の動静脈は、これら間膜内に存在しています。摘出する時は、まず卵管を牽引して腹側間膜を切開します。その後は卵管を牽引しながら、電気メスやレーザーメスで卵管動静脈と背側腹膜間膜を少しずつ凝固切断、または止血クリップを用いて結紮切断し、卵管を体腔から出していきます。背側腹膜間膜を切断すれば、卵管のほとんどを体腔外へ牽引することができます。卵管の尾側には卵殻腺があり、総排泄腔へと接合しています。卵殻腺の尾側、総排泄腔近くを結紮し、卵管を切断して摘出します。

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(5) 腸管の環納

 次に、脱出した腸管を体腔内へ環納します。腸管は腫脹していることが多く、正常よりも容量が多くなっていることも多いです。腸管の捻転が無いよう、空腸の前臍係蹄、臍係蹄、後臍係蹄を先に戻し、その後膵十二指腸係蹄、回腸の上十二指腸係蹄の順に戻すようにします。

(6) ヘルニア嚢の切除

p5-2_img11.jpg  次にヘルニア嚢を切除します。ヘルニア嚢は、進展した肝後中隔であるため余分な部分を切除します。もし完全に腸管が体腔内へ戻らない場合には、全て切除せず腸管を覆う分を残して切除します。




(7) ヘルニア輪の縫合

p5-2_img12.jpg 腸管が完全に腹腔内に環納でき、腸管に余分な圧迫がかからなければ、ヘルニア輪を非吸収糸を用いて縫合します。もし完全に腸管が体腔内に戻らない場合は、体腔内に入る分だけ戻した後、ヘルニア嚢を整形して腸管を被覆するように縫合します。




(8) 皮膚の縫合

p5-2_img13.jpg 皮膚はキサントーマ化していることが多いため、黄色に変化している部分はなるべく切除するようにします。縫合後に皮膚のヨレできないよう、また不均一にテンションがかからないように、皮膚を整形して縫合します。切皮時にX字に切開すると整形しやすくなります。
 縫合糸は、吸収糸を用いて術後に抜糸する必要がないようにします。縫合法は鳥が糸を齧ることがあるため連続縫合は適さず、単純結節縫合にて行います。キサントーマ化し肥厚している部位を縫合する場合は、組織に支持力がないため裂けやすく、また術後に針穴から出血することもあるので注意が必要です。

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(9) 術後管理

 術後は温度管理と皮下輸液による水和を行うと共に正常な排便があるかどうかを観察します。術前に絶食しているためすぐに排便が無い場合が多いため、術後すぐに摂取させるか、食べなければ強制給餌を行い排便があるかどうかを観察します。手術によって腸管に圧迫が強くかかった場合、稀に腸が通過障害を起こすことがあります。食物の摂取から6時間以上経っても排便が無い場合は、通過障害を起こしている可能性があります。この場合は、早急に再手術を行います。
 術後に術創をかじって出血したり、糸を取ってしまう場合には、エリザベスカラーを装着します。皮膚は電気メスやレーザーメスを用いて切開しているため、完全に皮膚が癒合するには、2週間以上かかります。その間、カサブタから出血する可能性があるため、自宅で注意深く観察してもらいます。


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