そ嚢液検査

 そ嚢検査は鳥の一般検査です。保定が必要になるので、検査をする場合には呼吸に異常が無いことが条件になります。
 鳥のそ嚢は、消化管の一部であり、食道が憩室状に膨らんだものです。その機能は、食物を一時貯留して、水和、軟化し、唾液中の酵素によって食物の分解が開始され、消化を助けています。そ嚢内では消化酵素の分泌や栄養の吸収は行われません。
 鳥のそ嚢は種類によって形態や位置が異なっており、この解剖学的位置を理解した上で、そ嚢液を採取します。
 そ嚢検査をする時には、そ嚢内容が少ないか、または無い時のほうが正確な評価ができます。特に雛鳥が多量のさし餌を食べていると、評価が困難になるため、来院前にはさし餌を食べさせないようにします。

1.そ嚢液採取手技

 鳥のそ嚢液を採取するには、専用の器具と安全に採取るテクニックが必要になります。

(1) 検査準備

p4-18_img01.jpg そ嚢液採取に必要な器具は、金属製ゾンデとシリンジ(注射器)です。シリンジには温めた生理食塩水をブンチョウ、セキセイインコの小型の鳥では0.2cc程度、オカメインコ、メキシコインコ等の中型の鳥では0.5cc程度吸っておきます。




(2) 鳥の保定

p4-18_img02.jpg 鳥は、頭部と翼を抑え、頚部を伸ばすように保定します。足がばたつく時は、保定者自身の着衣を掴ませるようにします。また片手で押さえきれない場合は、助手に翼を押さえてもらいます。




(3) ゾンデの挿入

 鳥の食道は、頚部の右側を通っているため、ゾンデは嘴の左側から挿入します。その後は食道に沿って先を進め、そ嚢内へ到達させます。この時頚部がまっすぐに伸びていないと、食道でゾンデが引っかかってしまいます。
p4-18_img03.jpgp4-18_img04.jpg p4-18_img05.jpg


(4) そ嚢液の採取

 ゾンデの先がそ嚢内へ到達したら、生理食塩水をそ嚢内へ注入し、その後吸引してそ嚢液を採取します。採取後はゆっくりとゾンデを抜き去ります。

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2.性状検査

(1) 色調の評価

 そ嚢液の色調は、摂取した食物に左右されますが、そ嚢内に食物が無ければ通常透明です。特に気を付けなければならなのは、茶褐色の時です。この場合出血があることが予測されます。羽毛を掻き分けてそ嚢を目視し、異常が無ければ胃出血が強く疑われます。胃炎によって通過障害が起こり、胃液が逆流していると、そ嚢液が茶褐色になります。
 赤い場合はそ嚢からの出血が考えられますが、そ嚢炎によって、そ嚢液が赤くなるほど出血することはほとんどありません。そ嚢からの出血は、喀血や鼻出血のそ嚢内貯留や火傷などが考えられます。
 白濁している場合は、そ嚢内での細菌の増殖が疑われます。

(2) 粘稠性の評価

 そ嚢には粘液を分泌するそ嚢腺が存在しますが、非発情期のそ嚢液の粘稠性は、通常ほとんどありません。インコ・オウム類の繁殖期には、そ嚢からの粘液分泌増加や腺胃内の餌も吐き戻すため、粘稠性が上がります。
 発情していない時や病気の時に粘稠性が高い場合には、細菌や真菌による酸敗や発酵、トリコモナスの寄生、デンプンの糊状化、胃液の逆流などが考えられます。

(3) 臭気の評価

 正常なそ嚢液は無臭〜やや酸臭がある程度です。もし強い酸臭や腐敗臭があった場合、細菌の増殖が考えられます。またアルコール臭があった場合、カンジダの増殖が考えられます。

(4) pHの測定

 そ嚢内の正確なpHを測定するのは難しいですが、そ嚢液採取に生理食塩水を使うため、通常は中性に近くなります。もしpHが酸性に傾いている場合、細菌の増殖や胃酸の逆流が考えられます。またpHがアルカリ性に傾いている場合、カンジダの増殖や細菌によるアンモニアの発生が考えられます。

3. 顕微鏡検査

 採取したそ嚢液をスライドガラス上に取り、カバーガラスをかけて、直接鏡検を行います。

(1) 細菌

 鳥のそ嚢内には細菌が常在していますが、単一の菌のみ増殖していたり、また菌数が多い場合は、異常である可能性があります。しかし注意しなければならないのは、これらの所見が見られたことが、直接そ嚢炎の診断にはならないということです。よく菌数が多いとそ嚢炎と診断されていることが多いですが、菌数は、そ嚢内に食物があるかどうかによっても変化し、またそ嚢液を採取する際の、生理食塩水の注入量によっても変化します。よってそ嚢炎の診断には、その他炎症細胞の出現があるか、嘔吐等の消化器症状があるか、そ嚢の視診・触診で炎症が出ているかなどを見て判断しなければならなりません。実際には、鳥が細菌性そ嚢炎を起こすことは非常に少ないです。
 顕微鏡検査で、細菌に病原性があるかどうかは分かりません。

(2) 真菌                       カンジダ症に関してはコチラを参照

 そ嚢液中に出現する真菌は主にカンジダです。カンジダ属には100以上の種がありますが、臨床的にはCandida albicansが分離されることが多いです。カンジダには、酵母型と仮性菌糸型の2つの形態があります。発生には熱変性したデンプンの摂取や免疫力の低下などが関与していることが多いです。カンジダの出現が直接真菌性そ嚢炎の診断にはなりません。

(3) トリコモナス                   トリコモナス症に関してはコチラを参照

p4-18_img08.jpg トリコモナスは、ブンチョウやカナリヤ等のフィンチ類、時折オカメインコみられ、食欲不振やそ嚢炎の原因となります。ジャンボセキセイインコには時折見られますが、普通のセキセイインコにはまれです。コザクラインコ、ボタンインコにはみられることはまれです。
 ブンチョウの幼鳥のトリコモナスが最も重い症状を呈していることが多く、口腔からそ嚢にかけて、壊死性潰瘍を形成し嚥下困難や吐き気の原因となります。

(4) 上皮細胞

p4-18_img09.jpg そ嚢内の最外層は、重層扁平上皮であり、そ嚢腺からの粘液を受け、粘膜を形成しています。上皮は全ての消化管と同様に常に脱落し、新生しています。この脱落した上皮細胞はそ嚢液中に普通に見られます。上皮細胞は2次元構造で、核を有しています。上皮細胞が多く見られる場合、そ嚢炎と診断されることが多いですが、これは直接そ嚢炎の診断にはなりません。数が多い場合には、まずビタミンA欠乏症を疑うべきです。
 上皮細胞内に細菌が侵入していることも多く見られますが、これも脱落前に上皮細胞内に細菌が侵入していたという証拠にはならず、そ嚢炎の診断にはなりません。

(5) 赤血球

 そ嚢液中に赤血球が見られる場合、口腔からそ嚢内の外傷や炎症、出血傾向、感染症などが考えられます。

(6) 白血球

 そ嚢液中に白血球が見られる場合、口腔からそ嚢内の炎症、鼻汁の流入などが考えられます。

(7) 羽毛

p4-18_img10.jpg そ嚢液中に羽毛が見られる場合、食羽症、毛引き症の可能性があります。





4.培養検査と感受性試験

 臨床的に最初から培養と感受性試験をすることは少ないですが、抗生物質を投与しても症状に改善が見られず、またそ嚢内細菌にも変化が見られない場合は、そ嚢液の培養検査と感受性試験を行います。
 そ嚢内には口腔や後鼻孔由来の細菌も含まれるため、検出された細菌が確実にそ嚢由来のものかどうかは、症状と合わせて検討すべきです。

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