腹部膨大1

 腹部膨大とは、平坦な腹部が体腔内の腫瘤や脂肪、貯留液などによって全体的に膨大または一部膨隆する状態を言います。鳥の非発情期の腹部はかなり狭く、腹側面のほとんどは胸骨で覆われています。また哺乳類とは異なり気嚢が存在するため、体腔内の容積が増えても初期は気嚢が圧迫を受けるだけで、腹部膨大の徴候がみられることは少ないです。よって臨床徴候として膨大がみられた時には、進行した状態であることを理解しておかなければなりません。

腹部膨大の鑑別診断

腹部膨大がみられる病気はコチラ

 鳥が腹部膨大を示す疾患は数多くみられます。これら疾患の鑑別をするには、外貌上の特徴、触診、ライティング、レントゲン検査、超音波検査など様々な検査が必要となります。

1. 外貌上の特徴(ファーストステップ)

p4-3_img01.jpg 腹壁ヘルニアは、腹筋が断裂し、臓器が皮下へ脱出している状態であるため、他の疾患とは異なった外貌上の特徴があります。他の疾患では、腹部全体が膨大したような状態となりますが、腹壁ヘルニアでは、腹部が突出または垂れ下がったような外貌になります。
 腹壁ヘルニアでは、ほぼ全ての症例で腹部皮膚のキサントーマ化がみられます。その他卵管蓄卵材症、卵黄性腹膜炎、卵管嚢胞性過形成といった生殖器疾患でも高率に腹部皮膚のキサントーマ化がみられます。卵巣・卵管腫瘍、卵巣嚢腫、精巣腫瘍といった嚢胞性、腫瘍性疾患では、キサントーマがみられることは少ないです。
 キサントーマは、肥満による皮下脂肪沈着とは外観が明らかに異なります。キサントーマは、皮膚が肥厚していますが、肥満の場合は、皮膚は薄く、皮下脂肪が透けてみえます。p4-3_img02.jpg

キサントーマ:炎症の一種で、皮膚にコレステロール沈着を起こして黄色くなった状態。






2. 触診による鑑別診断(ファーストステップ)

 腹壁ヘルニアでは、触診によって腹壁にヘルニア輪が確認できることがあり、軽度な症例では、臓器を体腔内へ戻すことができます。
 卵塞症では、体腔内にある卵を触診にて確認することができます。卵殻の形成が有るか無いかは、卵を圧迫することによって確認することができます。また卵が1個とは限らず、複数個存在する場合もあるため、様々な角度から触診する必要があります。
 体腔内に腫瘤が触知される場合には、卵巣・卵管腫瘍、卵管嚢胞性過形成、精巣腫瘍、腎臓腫瘍、膵臓腫瘍などが疑われます。
 肝炎や肝腫瘍による肝肥大では、腹部羽毛を掻き分けることによって、腹部を通して肥大した肝臓が観察されます。
 卵巣嚢腫、卵管嚢胞性過形成といった嚢胞性疾患、腹水では、腹部の波動感が確認できます。
 肥満の場合は、腹壁が確認され、皮下に脂肪が多量に沈着しています。
 皮下気腫の場合は、皮下に多量の空気が存在するので、容易に鑑別できます。

3. ライティングによる鑑別診断(ファーストステップ)

p4-3_img03.jpg ライティングは、腹部に光を当てることによって透過性や臓器の位置を確認する検査です。透過性のある液体が貯留した卵巣嚢腫、卵管嚢胞性過形成、卵巣・卵管腫瘍などによる嚢胞や卵巣・卵管腫瘍、精巣腫瘍などによる腹水が存在する場合には、ライティングによって体腔内が透過し、腹壁近くにある臓器は透けて視認することができます。しかし貯留液が卵材や血液等により強く混濁している場合には、ライティングによって透過することはできません。特に卵黄性腹膜炎による腹水は卵材により混濁しているため、透過しないことが多いです。超音波検査と合わせると正確な診断が出しやすいです。


4. レントゲン検査による鑑別診断(セカンドステップ)

 レントゲン検査は、腹部膨大を鑑別する際に最も有用な検査です。単純撮影および消化管造影撮影によって多くの病気を鑑別することができます。

正常なレントゲン画像はコチラを参照

(1) ラテラル像における筋胃の腹側シフト

p4-3_img04.jpg 筋胃内には通常グリットと呼ばれる砂が存在するため、レントゲン写真において筋胃の位置を確認することができます。
 ラテラル像における筋胃の腹側シフトは、筋胃の背側に臓器の増大、腫瘤または嚢胞が形成されたことを示唆しており、卵管蓄卵材症、卵巣・卵管腫瘍、精巣腫瘍、腎臓腫瘍などが考えられます。


(2) ラテラル像における筋胃の背尾側シフト

p4-3_img05.jpg ラテラル像における筋胃の背尾側シフトは、筋胃頭側に臓器の増大、腫瘤または嚢胞が形成されたことを示唆しており、肝肥大、腹水(肝腹膜嚢水症)などが考えられます。





(3) ラテラル像における筋胃の頭側シフト

p4-3_img06.jpg ラテラル像における筋胃の頭側シフトは、下腹部に臓器の増大、腫瘤または嚢胞が形成されたことを示唆しており、卵塞症、卵管蓄卵材症、卵管腫瘍などが考えられます。





(4) VD像における腸管右側シフト

p4-3_img07.jpg 消化管造影撮影を行った際に、VD像において消化管が右側へシフトしている場合は、卵管の膨大が考えられます。鳥類は卵管が左側のみに存在するため、何らかの原因により膨大した場合、腸管を右側へシフトさせます。
 消化管の右側シフトが確認できる場合は、正常発情、卵管蓄卵材症、卵管腫瘍などが考えられます。





(5) 腸管腹側シフト

p4-3_img08.jpg 消化管造影撮影を行った際に、ラテラル像において腸管が腹側へシフトしている場合は、腸管背側に腫瘤または嚢胞が形成されたことを示唆しており、卵巣腫瘍、精巣腫瘍、腎臓腫瘍などが考えられます。




(6) 腸管の体腔外脱出

p4-3_img09.jpg  消化管造影撮影を行った際に、腸管が体腔外へ脱出している場合は、腹壁ヘルニアが考えられます。臓器脱出の確認は、ラテラル像にて腹壁ラインから臓器がヘルニア嚢内へ逸脱していることにより行うことができます。また消化管造影によって卵管の脱出の程度も推測することができます。


(7) VD像における砂時計型陰影の消失

p4-3_img10.jpg  腹部膨大がある場合、腹壁ヘルニアの場合を除き、ほとんどの症例でVD像において砂時計型陰影の消失がみられます。砂時計型陰影は、心臓および肝臓によって描出される陰影ですが、臓器の増大、腫瘤または嚢胞の形成、腹水貯留によって体腔内陰影の増大がみられることによって砂時計型の陰影が消失します。
 肝肥大の診断には、砂時計型陰影の変化が有用ですが、腹部膨大がある場合は、VD像において肝肥大を診断することはできません。よってラテラル像において、筋胃位置の背尾側シフトによって肝肥大を診断します。

(8) 骨髄骨の存在

p4-3_img11.jpg 骨髄骨は、エストロジェン (発情ホルモン)の影響により骨髄内にカルシウムが沈着して起こる鳥類特有の変化です。レントゲン写真上では、多骨性に骨、骨髄内のデンシティの上昇によって確認できます。
 雌に骨髄骨が確認できる場合は、その程度によって発情の強さを推測することができます。多くの卵巣・卵管疾患で骨髄骨の増殖が確認できます。
 雄に骨髄骨が確認できる場合は、エストロジェン分泌性の精巣腫瘍、精巣機能異常などが考えられます。

(9) 卵材の存在

p4-3_img12.jpg 卵材とは、卵を構成する成分である卵黄、卵白、卵殻膜、卵殻のことです。レントゲン写真上で確認できる卵材は卵殻成分であり、その他の成分は軟部組織や貯留液との鑑別はつきません。確認される卵殻成分には、正常卵、薄殻卵、破裂卵、軟状卵材への石灰沈着、結石状、砂状などがあります。卵材が確認できる場合は、卵塞症、卵管蓄卵材症、卵黄性腹膜炎、卵管結石などが考えられます。


(10) 背側の腫瘤または嚢胞形成

 腹水が存在しない場合や形成された腫瘤と消化管のデンシティに差がある場合、体腔内背側に腫瘤または嚢胞の形成が明確に描出されることがあります。背側の腫瘤または嚢胞が形成された場合は、卵巣腫瘍、精巣腫瘍、腎臓腫瘍などが考えられます。

5. 超音波検査による鑑別診断(セカンドステップ)

 超音波検査は、体腔内の腫瘤または嚢胞の確認、腹水の有無など検査する際に用いられます。腹部膨大のない場合、鳥は腹部が小さく、また腹気嚢が大きく張り出しているため超音波検査は有用ではありません。しかし腹部が膨大した場合、描出する範囲が大きくなるため、診断に有効な画像を得ることができます。レントゲン画像と照らし合わせて読影することにより、より診断精度を上げることができます。
 腹部膨大症例に超音波検査を行う場合には、呼吸不全を予防するために、保定前に酸素化(酸素を吸わせておく)を行い、保定時には頭部にマスクを被せ、酸素吸入をしながら行います。

(1) 腫瘤が存在する場合

p4-3_img13.jpg 腹部膨大症例で体腔内に腫瘤を形成する疾患には、卵巣腫瘍、卵管腫瘍、卵管嚢胞性過形成、精巣腫瘍、腎腫瘍などが考えられます。
 卵巣腫瘍、卵管腫瘍では、腫瘤のみ形成される場合もありますが、多くは嚢胞の形成を伴います。
 卵管嚢胞性過形成では、水分を多く含む腫瘤と嚢胞の形成を伴います。
 精巣腫瘍では、実質性の腫瘤が形成されますが、その組織の特長によって描出される腫瘤の濃度に大きな違いがみられます。また時に腫瘍漿膜面に嚢胞形成を伴うこともあります。
 腎腫瘍では、腹水が貯留することがなく、また背側に形成されるため、画像は不鮮明になりやすいです。

(2) 嚢胞のみが存在する場合

p4-3_img14.jpg 腹部膨満大例で体腔内に嚢胞のみを形成する疾患には、卵巣嚢腫、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍などが考えられます。
 卵巣嚢腫は、単胞性または多胞性に壁が薄い嚢胞が形成され、腫瘤の形成を伴うことはありません。貯留液の性状は、無色透明なことが多く、混濁した貯留液が描出されることはまれです。
 膵臓腫瘍は嚢胞状であり、血液成分等を含んだ混濁した液体を含んでいることが多いです。嚢胞壁は厚く実質性であることが多いです。
 卵巣腫瘍および卵管腫瘍でも嚢胞のみを形成することがあるため、超音波検査のみで卵巣嚢腫との鑑別は困難です。また精巣腫瘍も嚢胞のみを形成することがあるため、実質が描出されないからといって腫瘍を否定することはできません。

(3) 腹水がみられる場合

p4-3_img15.jpg 腹部膨大症例で腹水が貯留する疾患には、卵黄性腹膜炎、体腔内腫瘍、心疾患や肝疾患に伴う腹水などが考えられます。超音波検査で嚢胞と腹水を鑑別する時の着目点は、腸管の位置です。嚢胞の場合は、腸管が嚢胞周囲に押されて変位していますが、腹水の場合は、腸管が腹水内で揺れ動いているのを確認することができます。しかしこれは腹水が腸管腹膜腔に貯留している場合であり、肝臓腹膜腔に腹水が貯留した場合には、消化管は全て背側へ変位しています。腸管腹膜腔とは、胃腸や生殖器がある体腔で、肝臓腹膜腔とは、心臓や肝臓がある体腔です。鳥類は、哺乳類とは異なり、肝後中隔と言う膜で体腔が仕切られています。
 卵黄性腹膜炎では、腹腔内に多量の卵材があり、また卵管は卵管蓄卵材症を起こしていることが多いため、超音波画像では、混濁した腹水内に腫脹した腸管、膨大した卵管、卵材などが確認され、ます。
 腎腫瘍以外で体腔内に形成される腫瘍には腹水が伴うことが多いです。
 心疾患や肝疾患に伴って腹水が貯留する場合があります。腹水は多くの場合、肝臓腹膜腔に貯留します。

(4) 正常卵胞が確認できる場合

p4-3_img16.jpg 体腔背側に正常な成熟卵胞が確認できる場合は、卵巣が正常であること示しており、腹部膨大の原因から卵巣疾患を排除することができます。しかし稀に一部のみ卵巣腫瘍や嚢胞が形成されていることもあるため、レントゲン画像と合わせて診断する必要があります。

(5) 卵が確認できる場合

p4-3_img17.jpg 超音波検査で卵が確認できる場合、新しいものであれば卵塞症が考えられ、古いものであれば、卵管蓄卵材症が考えられます。しかし超音波検査では卵が卵管内あるのか体腔内にあるのかは鑑別できないため、卵墜症の可能性も常に疑わなければなりません。
 超音波画像上で卵が新しいか古いかは、卵黄が確認できるかで判断することができます。新しい卵は、卵中央に綺麗な輪郭を持った卵黄を確認することができ (図参照)、その周囲には混濁しない卵白もみられます。これに対して古い卵は、すでに卵黄が破裂し、卵白と混ざり混濁しています。
 卵殻の有無は、触診にて確認することができますが、超音波画像上では卵殻がある場合、卵の背側にシャドーを確認することができます。

(6) 肝臓の肥大および嚢胞がみられた場合

p4-3_img18.jpg 正常な肝臓は、超音波検査にて確認することは、小型鳥の場合困難なことが多いです。もし超音波検査にて肝臓が描出することができた場合、肥大していると考えられます。超音波画像上での肝臓は、哺乳類のそれに近いため、容易に判別することができます。
 肝臓の肥大がみられた場合は、脂肪肝症候群、肝炎、肝臓腫瘍などが考えられます。また肝臓に付随する嚢胞が確認できる場合には、肝嚢胞、胆嚢嚢腫などが考えられます。

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