レントゲン検査

 レントゲン検査も鳥の診療において重要な検査です。レントゲン検査は、目で見える症状だけでなく、隠れた症状を見出すことができ、また客観的な判断もできる検査です。
 鳥のレントゲン撮影は、被写体が小さいため、犬や猫を撮影するのとは違った技術が必要です。診断価値のあるレントゲン写真をとるために当院ではそれなりの工夫をしています。また読影基準も犬や猫とは違っているため、獣医師には専門的な知識が必要になります。
 正確なポジショニング、かつ質の良いレントゲン写真を撮り、そこから最大限の情報を引き出せなければ、鳥に負担をかけるだけになってしまいます。きちんと撮影されたレントゲン写真は、素人目でみても綺麗です。ボヤけていたり、鳥が曲がって写っている場合は、診断価値はありません。レントゲン検査を受けた場合には、飼い主さん自信もレントゲン写真をよく観察して下さい。

1.レントゲン検査の目的

 レントゲン写真を撮るには、必ず目的を持って撮らなければなりません。レントゲン検査で何が判るのかを把握した上で、撮影し読影しなければ見落とす原因にもなります。
 鳥のレントゲン検査では次のような項目が読影でき、検査の目的となります。

(1) 呼吸器症状の評価

 呼吸音、呼吸困難、呼吸促迫、開口呼吸、咳、チアノーゼなどの呼吸器症状を呈する際に、気管、気管支、鳴管、肺、気嚢の評価を行います。
 肺炎、気嚢炎、鳴管の異常、気管の異常などを診断できます。

(2) 甲状腺の評価

 甲状腺の大きさの評価を行います。正常な大きさの甲状腺は、レントゲン写真には写りませんが、甲状腺が肥大すると写るようになります。呼吸音や開口呼吸があり、甲状腺腫が疑われる場合には、レントゲン検査で確認を行います。

(3) 心臓の評価

 心臓の大きさや形状の評価を行います。鳥は心臓疾患を起こすことも少なくありません。人のように心電図や超音波検査での評価は困難なため、レントゲン検査は心疾患診断のために必要となります。

(4) 肝臓の評価

 肝臓の大きさや形状の評価を行います。鳥には肝臓疾患が多く、肝臓の大きさや形状は、肝臓疾患の診断に必要となります。

(5) 腎臓の評価

 腎臓の大きさや形状の評価を行います。腎臓の大きさや形状は、腎臓疾患の診断に必要となります。

(6) 脾臓の評価

 脾臓の大きさや形状の評価を行います。感染症、特にクラミジア症では脾臓の腫大がみられます。

(7) 生殖器の評価
 精巣、卵巣、卵管の評価を行います。腹部膨大を伴う卵巣、卵管疾患では消化管造影を行い、消化管変異による腫瘤の位置確認や大きさの評価を行います。

(8) 嘔吐・吐出の評価

 吐出・嘔吐がある場合、消化管でも特にそ嚢、腺胃、筋胃の大きさ、形態、位置、内容物の評価を行います。胃の位置の評価は、他の臓器の大きさの評価に役立ちます。

(9) 歩行異常・飛翔困難の評価

 脚、趾、翼に疼痛や麻痺、機能異常がある場合、骨、関節、周囲軟部組織の評価を行います。また腎臓や精巣の肥大による坐骨神経圧迫の評価も行います。

(10) 外傷の評価

 踏んだ、落ちた等の事故時の体腔内出血や骨、関節の評価を行います。

(11) 腫瘍の評価

 腫瘍ができた際に、骨への影響や転移像がないかの評価を行います。

(12) 麻酔前検査

 麻酔前に循環器や呼吸器に異常がないかをレントゲン検査でチェックします。

(13) その他スクリーニング検査

 鳥は、人と違って自覚症状をしゃべらないので、診断に結びつく症状がない場合に、スクリーニング検査としてレントゲン検査を行います。これによって予想外の症状が見つかることもよくあります。

2. レントゲン撮影システム

 撮影法の中でも、小さな鳥をいかにコントラストが高い写真を撮れるかは、解像度が最も重要となります。これはデジカメと同じで、解像度(画素数)が大きいほど詳細に撮れるのと同じです。
 レントゲンシステムには、アナログシステムとデジタルシステムがあります。アナログシステムとは、従来の方法で、レントゲンフィルムで撮影して現像するものです。デジタルシステムとはCR(コンピューテッド・ラジオグラフィ)と呼ばれ、フィルムではなくコンピューターで画像を見ることができるシステムです。最近では、人の方ではどんどんデジタル化してきています。
 アナログシステムで鳥を撮影するには、乳房撮影用のマンモフィルムが最も適しています。このフィルムは乳房というコントラストが付きにくい軟部組織用に作られているため、鳥でもコントラストが付き易く、細かい描写が可能です。
 CRは、コンピューターの画面上で拡大・縮小、濃度の調整、過去画像との比較が容易にでき、非常に診断価値の高いシステムです。当院では、以前はマンモフィルムを用いていましたが、現在はFCR(富士フィルムメディカル)を導入しています。

3.鳥を撮影する前の評価とリスク

 鳥がどんな状態でもレントゲン検査ができるわけではありません。衰弱がひどかったり、呼吸困難がひどい場合には、すぐに検査ができない場合もあります。獣医師は、今現在病気の鳥が、レントゲン検査のための保定に耐えられるかを判定する必要があります。
 また保定に耐えられると判断されても若干のリスクはあります。人でしたら、じっとしていますので何ら問題ありませんが、鳥は撮影を理解できませんので、人の手で動かないように抑えなければなりません。この時、暴れることによって自らの力で外傷を起こすことがあります。また予想外に虚脱してしまうこともあります。ですのでレントゲン検査は、若干のリスクがあることをご理解頂いた上で行うことになります。

4.保定法

 鳥の保定法には、徒手保定(人が手で抑える)、テープ固定、全身麻酔などがありますが、一般的には徒手保定法が多く用いられています。この方法には鳥の保定時間が短いため負担が少なく、保定によって鳥の状態が悪くなっても、すぐに保定を解除することができるメリットがあります。デメリットとして、獣医師の手が被爆しやすいという点があります。ですので獣医師は被爆を最小限にするために、鉛入りグローブを着用し、照射範囲になるべく手が入り込まないように撮影を行います。
 鳥の撮影の基本は、ラテラル撮影とVD撮影です。ラテラル撮影とは、鳥を横から撮影したものです。VD撮影とは、鳥の腹側面から背側面方向に撮影したもので、対面しているような状態になります。
 保定法は、病院によって異なりますが、当院では次のような保定法を行っています。

(1) 体重150g以下の鳥種(セキセイインコ、オカメインコなど)の保定法

ラテラル撮影 VD撮影
・左手の人指指と中指で頚部を挟み、頭部を牽引します。
・翼を背部へ伸ばし、親指と薬指で両翼角部(手根関節)を持ちます。
・右手で両足を牽引して、膝関節を伸展させます。
・左手で頭部を牽引し、頚部を伸ばします。
・右手で両足を牽引し、膝関節を伸展させます。
・翼は持たなくても、あまり動きません。  
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(2) 体重150g以上の鳥種(バタンオウム、ヨウムなど)の保定法

ラテラル撮影 VD撮影
・保定は2人で行います。
・助手は頭部を牽引し、頚部を伸ばすようにすします。
・保定者は翼を背部へ伸ばし、右手で両翼角部(手根関節)を持ちます。
・保定者は左手で両足を牽引して、膝関節を伸展させます。
・助手は右手で頭部を牽引して頚部を伸ばし、左手で左翼を持ちます。
・保定者は右手で両足を牽引し、膝関節を伸展させ、左手で右翼を持ちます。 
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5. ポジショニング

 ポジショニングとは、鳥を撮影する時の姿勢のことです。レントゲン写真の診断的価値は、ポジショニングに左右されます。鳥は小さいために、ポジショニングに少しでもズレが生じると、誤った評価をしてしまう可能性が高くなります。ゆっくり呼吸していない限り、最大吸気時撮影は困難ですが、次の点に気をつけて撮影しています。

(1) ラテラル撮影

・竜骨と脊椎が同じ高さになるようにする。
・両肩関節が重なるようにする。
・両股関節が重なるようにする。
・十分に両脚を伸展させる。

(2) VD撮影

・竜骨と脊椎が重なるようにする。
・カセッテと脊椎が平行になるようにする。
・頚部と尾が曲がらないようにする。
・十分に両脚を伸展させる。

6. 正常なレントゲン解剖

 異常な所見を見つけるためには、正常を知っておく必要があります。飼い鳥には、多くの種があるため、 獣医師はそれぞれの特徴や違いを知らなければなりません。また年齢や性別、繁殖周期による違いも知っておく必要があります。

(1) 正常なセキセイインコのオスのレントゲン写真・ラテラル像

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(2) 正常なセキセイインコのオスのレントゲン写真・VD像

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(3) 正常なモモイロインコのメスのレントゲン写真・ラテラル像

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(4) 正常なモモイロインコのメスのレントゲン写真・VD像

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(5) 正常なブンチョウのメスのレントゲン写真・ラテラル像

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(6) 正常なブンチョウのメスのレントゲン写真・VD像

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番号の説明

(1) 肺:鳥の肺の網目構造は、細気管支によって構成されており、哺乳類の肺胞とは異なります。また呼吸によって容量はほとんど変わりません。肺葉はなく、肋骨間に入り込んでいます。

(2) 第2次気管支:第1次気管支は肺内で第2次気管支に別分かれ、周囲気嚢へと連絡します。特に頚気嚢と連絡する第2次気管支は、明瞭な陰影が観察されます。

(3) 精巣・卵巣:インコ・オウム類の精巣は、長楕円形ですが、スズメ目鳥では球形に近い です。非発情時と発情時の大きさにはかなりの差があります。卵巣は無数の卵胞で形成されており、非発情時は小さく不鮮明にしか写りませんが、発情時では複数の未成熟から成熟卵胞が確認されることもあります。

(4) 腎臓:鳥の腎臓は、哺乳類とは大きく異なり、扁平で3葉に分かれており、複合仙骨内に入り込んで固着しており、遊走することはありません。

(4)′腎臓前縁:VD像では、肝臓の陰影に重なって腎臓が確認されます。またオスでは精巣も重なってきますが、コントラストが良ければ鑑別可能です。

(4)″腎臓後縁:VD像では、複合仙骨の尾側部に腎臓の後縁があります。

(5) 腺胃:紡錘形をしており、比較的小さいです。

(6) 筋胃:筋胃は、内部にグリット(砂)を入れていることが多く、容易に位置が確認できます。

(7) 腸管:いくつかの腸ループが確認されます。消化管造影は体腔内臓器位置を把握するのに有用です。

(8) 肝臓:鳥の肝臓は2葉に分かれていますが、葉間裂は確認されません。腺胃を包み込むような状態で、心臓の尾側に位置しています。肝臓の腫脹は、胃の位置やVD像での横幅で容易に確認できます。

(9) 脾臓:脾臓は楕円形で、ラテラル像で腺胃から中間帯付近に重なって確認できます。しかしセキセイインコやブンチョウ等の小型鳥では確認は困難です。腫大した場合は、小型鳥やVD像でも確認できます。

(10) 気管:気管は哺乳類とは異なり、完全気管輪によって形状が保たれており、物理的圧迫がない限り、狭窄することはありません。

(11) 鳴管:鳥には声帯がなく、鳴管で鳴き声を出しています。鳴管の位置は鳥種によって異なりますが、インコ・オウム類とフィンチ類では、気管から気管支の分岐部に位置します。

(12) 心臓:鳥の心臓はやや細長く、心尖周囲は肝臓と重なっています。また腹側周囲は前胸気嚢に囲まれています。

(13) 大動脈:ラテラル像では、大動脈は小型鳥でも確認でき、大型鳥では腕頭動脈枝も確認できます。VD像では、大動脈は小型鳥では不鮮明です。

(14) 肺動脈:肺動脈は、ラテラル像で確認しやすい。動脈硬化による石灰沈着を起こしやすい。

(15) 肺静脈:肺静脈は、ラテラル像で肺動脈の右側に位置します。

(16) 大静脈:大静脈はラテラル像で確認できます。

(17) 腹気嚢:腹気嚢は、腹部の背側左右にある大きな気嚢です。吸気時には体腔内で左右が大きく接触するほど拡張します。

(18) 後胸気嚢:後胸気嚢も大きく発達した気嚢で、肝臓の腹側に確認できます。

(19) 鎖骨間気嚢:鎖骨間気嚢は肩関節周囲に位置し、上腕骨と連絡します。

(20) 肝後中隔脂肪:鳥の体腔内で唯一脂肪が付く部分であり、肝後中隔の腹側面の腹筋下に脂肪が蓄積します。

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